パリには数千軒のブーランジェリー(パン屋)があり、焼きたてのパンの香りが漂わない通りはほとんどないほどだ。しかし店ごとの質の差は非常に大きく、工業的な量産パン店と、その場でこねて成形し焼き上げる本物の職人の店とが混在している。この二つを見分け、寄り道する価値のある名物を知っておくと、街をぶらつきながら食事をする体験がまるで変わってくる。
本物の職人系ブーランジェリーを見分けるコツ
フランスでは「ブーランジェリー」という呼称は法律で保護されており、この名を名乗るには、冷凍済みの半焼成生地を使わず、店内で生地をこね、成形し、焼き上げる必要がある。実際には、店頭に「ブーランジェリー・アルティザナル(職人のパン屋)」の表示があること、ピーク時に行列ができていること、店に入った瞬間に焼きたてパンの香りが漂うことなどが良い目安になる。パンをその場で焼いているか尋ねてみるのもよく、ほとんどの職人は喜んで答えてくれる。
バゲットの伝統とパリ・バゲット・コンクール
毎年、市が主催する「グラン・プリ・ドゥ・ラ・バゲット・ドゥ・パリ」というコンクールが、焼き加減、気泡の入り方、パリッとした皮、味といった細かい基準に基づいてパリ一番のバゲット・トラディションを選出する。優勝したブーランジェリーには大きな注目が集まり、何より1年間エリゼ宮(大統領官邸)にパンを納める栄誉が与えられる。このコンクールは、バゲットが単なる日用品ではなく、フランス人の誇りを体現する存在であり続けていることをよく物語っている。
クロワッサン以外にも試したいヴィエノワズリー
パン・ショコラ(客の出身地によっては「ショコラティーヌ」とも呼ばれ、これは今も店先でよく論争の種になる)は不動の定番だが、そこで止まってはもったいない。ブルターニュ発祥の層状でキャラメル風味のクイニーアマン、アーモンド風味のしっとりした小さな焼き菓子フィナンシェも、良い店では同じくらい注目に値する。個性的な創作菓子を、しばしば期間限定で出しているブーランジェリーも多く、その場で味わう価値がある。
市場を歩いて地元愛される店を見つける
地区の食品市場は、地元の人に愛されるブーランジェリーを見つける絶好の出発点だ。近くの商店主や行列に並ぶ客が、自然にお勧めの店を教えてくれることも多い。また、午前中の終わり頃に「売り切れ」の札を出している店を観察するのも、生産量が限られていて、その日のうちに売り切ってしまう良い店を見分ける確かな指標になる。時代を超えて変わらない特定のリストより、地元の習慣に従う方がずっと役立つことが多い。
焼きたてのバゲットを味わう絶好のタイミング
パリのほとんどのブーランジェリーは一日に何度か焼き上げを行っており、早朝の一回目に加えて、しばしば夕方に二回目の焼き上げがある。ランチタイムのピークを外して訪れれば、焼きたてのパンに出会える確率が上がる。店によってはショーウィンドウに焼き上げ時間を掲示していることもあるので、温かいバゲットにこだわるならチェックしておきたい。
マレ地区、パン屋巡りにぴったりの出発点
サン・タントワーヌ通りなど賑やかな商店街が並ぶマレ地区には、老舗の名店から最近開業した若手職人の店まで、質の高いブーランジェリーが密集している。伝統的な菓子と創作系のものを織り交ぜながら歩く、食い倒れ散歩の絶好の舞台だ。サン・マルタン運河沿いや11区など、他の地区も同じ視点で探検する価値がある。
ワンポイントアドバイス
バゲットを最高の状態で味わうには、購入後1時間以内に食べるのがコツだ。保存料を使わない伝統的なパリのパンは、時間が経つとすぐに食感が落ちてしまう。日曜の朝に長い行列ができているブーランジェリーを見かけたら、それは避けるべきサインではなく、むしろ良い店の証であることが多い。 多くのブーランジェリーは週に1日、多くは月曜日に休業し、伝統的な休暇シーズンである8月には営業を縮小する店もある。シャッターが閉まっていたときのために、控えの店も頭に入れておくとよい。また、最高の店が必ずしも一番有名な店とは限らない点も覚えておきたい。観光の大通りから離れた裏通りに構える職人たちは、同等かそれ以上の品質のパンを、より手頃な価格で提供していることが多い。